SR/Fの面白さを伝える
岸本ヨシヒロ氏インタビュー
岸本氏プロフィール
- TEAM MIRAI代表
- 2011〜2013年マン島TT TT Zeroクラス(場所:英国王室属領 マン島)
- ※2011年は日本初の電動バイクチームとして海外レースに初参戦(チーム名:TEAM Prozza)
- 2014年〜パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムレース(PPIHC) 参戦(場所:アメリカ コロラド州)
- 2015年 同、電動バイク クラス優勝
- 2019年 マン島TT TT Zeroクラス 3位表彰台
「Zero Motorcycles」との出会い
「僕はレーサーではない電動バイクの市販車を完全になめてたんです。」
僕は2014年にパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムレース(PPIHC) の改造車部門にはじめて出場しました。 その時「Zero Motorcycles」の方が市販車部門に5、6台出場されていて、その時に電動バイクメーカーの「Zero Motorcycles」の存在を初めて知りました。
その時初めて見たのが「SR」という「SR/F」の前から発売されているモデルで、割とコンサバなデザインのバイクでした。簡単に表現すると「普通っぽい見た目」のバイクだったので、当時はそんなに僕の印象には残らなかったんです。
タイムもぼくらより遅いですし、市販車も頑張っているなぁ位の印象だったのですが、その年のパイクスピークの帰りに、「Zero Motorcycles」の方々に誘われて、サンフランコシスコにある会社に見学に行きました。 工場見学もさせてもらって、その後エンジニアの人たちとツーリングに行ったんです。会社の裏がスコッツバレーという山奥で、ワインディングロードが続く、天然のいいテストコースがあったんですよ(笑)。
市販車の常識が覆った
市販車なんで、「250cc位のバイクかなぁ」と思ってアクセル開けてみたら、トルクがものすごすごかった(笑)。 まるでジェットコースターみたいな感じで、一気に高速移動が出来てしまう。そのトルク感というのは、リッターバイクでも、なかなか体感できない感覚でした。
内燃機関のオートバイはシフトアップして、回転数と速度を合わせていきますが、電動の場合は本当にシームレスで、全くギアチェンジせず、一気に最高速まで引っぱることが出来ます。しかもゆっくり走ろうと思えば回転数を上げなくても自分のペースで走れますし、極低速でもエンストしないですから(笑)。
そこにシビれて「こんな面白いバイク」があるんだ、と衝撃を受けましたね。
初めてバイクに乗った時の楽しさを思い出せる
「Zero Motorcycles」のバイクに乗って、初めてバイクに乗った時の衝撃、それにすごく近い感動を思い出しました。僕も原付からレーサーまでいろいろなバイクに乗ってきましたが、正直どんなバイクに乗っても初めてバイクに乗った時のような、
魂を揺さぶるような衝撃を受けなくなっていました。レースもやってますし、試乗やテストなど仕事でバイクに乗るようになって、例え300km/h以上出ても感動というよりは正確にその車両のポテンシャルを引き出して評価するという感じで、そこに「感動」はありませんでした。それが「Zero Motorcycles」は下からの突き上げ感というか、トルク感がすごい面白かった。これはもう初めてバイクに乗った時以来の衝撃でした。楽しかったんです。
「Zero Motorcycles」には世界最先端の技術が集まっている
「Zero Motorcycles」には世界的な最先端の技術があって、市販車として信頼性のあるメーカーだったので、2015年からそのコンポーネンツを使わせてもらって、韋駄天っていう軽量コンセプトの電動バイクを開発していきました。 開発陣はとてもフラットで、普通、メーカーは車体のデータを渡してくれたりはしないんです。ですが、僕をレーサーとしてだけではなく、作り手としてもリスペクトしてくれて、その流れでCADデータなどの車体データを貰う事が出来ました。
そのデータがあったのでスキャンニングに余計な時間とコストをかけてなくても、翌年に「韋駄天ZERO」という新しいバイクにデータを反映させて、短い時間で車両を開発することが出来ました。
開発者は本当にバイク好きで、アメリカのモーターサイクルメーカーの「ビューエル (Buell)」とか他のメーカーにいた人たちが集まってバイクを作っていて、みんなとても楽しんで仕事をしているんです。
そういうところを間近に見て「あぁ本当にいいメーカーだな」と思いました。
天才的な技術者の存在
天才的なバッテリーを組む技術を持った人が、「Zero Motorcycles」にはいるんですが、どうやってバッテリーマネジメントシステムを組んでいるのか?僕がみてもぜんぜんわからない。 誰もやったことない中で計算式をたたきあげて、バッテリーを組んでいっているんです。
デザイナーさんや技術者の人の努力を垣間見るにつけ、開発に賭ける情熱を感じられます。しかも、みんなすごく楽しんでやっていて、アメリカの良さというのを実感しました。
「SR/F」の車体デザイン
今回「SR/F」のデザインは、「ポラリス(Polaris)」傘下のビクトリー(現Indian Motorcycleに2017年に統合)というオートバイメーカーに居た方が転職してチーフデザイナーとしてデザインしています。
一からクレイモデルを作って、粘土を削って形にこだわってデザインしているんですが、実は「SR/F」の形を一から作るっていうのは、すごく大変なんです。
こういうトラスフレームっていのうは、とてもお金がかかるんですよ。溶接のやり方だったり、どうしてもコストがかかってきます。そのためなかなか日本メーカーが採りずらい車体構成なんです。
同軸(ピボット同軸)だったりとか、「SR/F」はいままでなかったような電動バイクを作るチャレンジをしている、なかなか面白いバイクです。
通が最後に行き着くバイク
よくEVは航続距離が短いとか排気音や振動がないので...言われる方がいらっしゃるのですが、否定から入るのもいいのですが逆にこのバイクで何が出来るか?その発想がある方にはこのバイクは向いています。ともかく理屈ではなく、まずは乗ってみて欲しいですね。
電動ならではのスピード感とかトルク感とか、逆に静なところとか、そして充電時間すら楽しめる、新しい電動の楽しみ方を面白いと思えるかどうか?だと思います。
ガレージも油臭くならないし、油脂の匂いもしないし、エンジンだと下から熱がどんどん上がって来て夏は大変暑いですが、その熱も全然ないですし。大自然の中を「SR/F」でツーリングすると、音もなく、匂いもないので本当に心地よい感じがします。
そして意外に購入される方は所謂「富裕層・お金持ち」ばかりではなく、長年いろいろなバイクに乗りつくした方が最後に行き着くバイクみたいなところがあるんです。
このバイクの良さがわかる人は「本物の通」だと思います。購入者さんのガレージに行くとBMWとかKTMとか、外車も乗って日本車ももちろん様々乗りつくした人たちが「このバイク楽しい」と口を揃えて言うんです。そしてまた次も電動車を買うという面白い循環を感じています。
EVだからって環境意識はいらない
環境意識とか、地球のためにという意識はもちろん人としてまた作り手として必要ですが、それを基準に乗り手が電動バイクを選ぶのは僕はしなくてもいいと思っています。
日本のメーカーさんを含めてコンプライアンス的な事とか、ヨーロッパのEVシフトに併せて仕方なく電動車を開発していたり、またはビジネス的な側面から開発していたりとか、そういう背景があると思います。
近年、特に大型バイクは趣味の乗り物としての傾向が強くて、バイクを通したそれぞれの楽しみ方、生活や人生経験を豊かにするために存在しているとも言えます。
乗るバイクのチョイス自体がライフスタイルの自己実現や表現ということもあると思います。その傾向の中で内燃機関であろうが電動であろうが、「バイクをもっと楽しむためにはどうすればいいか?」という原点に立ち帰る必要があると思っています。
「SR/F」の面白さは理屈じゃないんです。とにかく楽しい。究極的にはモーターであろうが、エンジンであろうが関係なく「乗り物としての楽しみ方を追求したい」というのが僕の思いです。
今の時代にあったバイクの楽しみ方を提案するというのは、僕たちの役割じゃないかな、と思います。ベンチャーならではのバイクの「新しい楽しみ方の提案」を国内のサプライヤーさん達や応援してくれる皆さんの協力を得ながら、
スピード感を持って新しい提案をしていくのがXEAMさんと僕の社会的な使命だと思っています。今後の僕とXEAMさんとのコラボも楽しみにして欲しいです。